【ネタバレ・あらすじ】他人事と思うなかれ!「ヘルプマン」から学ぶ介護とその現状
日本は世界的に見ても間違いなく高齢化社会です。もちろん、元気なお年寄りが増え、70代を超えても現役で仕事をなさっている方も少なくありませんよね。
しかし、体が弱くなったり認知症が始まったり、1人で自分の身の回りのことが出来なくなる方も当たり前に存在します。
昭和の時代は、家族で介護をするのが当たり前でしたが、核家族化が進み、また生涯単身の方も増えた現代社会では、福祉サービスや行政に頼らざるを得ないのが現状です。
今回ご紹介したいのは、2003年から連載されてきた「ヘルプマン!」です。
介護の現状、家族介護、認知症、介護する側の視点、高齢者の視点などさまざまな角度から介護にまつわる問題点を鋭く切り取った社会派コミックです。
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ヘルプマンの登場人物
長い連載の中で、一つのテーマを数話にわたって取り上げていますが、基本的な登場人物のみ取り上げます。
恩田百太郎
弁当屋を営む家庭に生まれ、厳しい祖母、温和な両親、自衛隊員の弟という家族構成。
非常に猪突猛進、思い込んだら突き進む性格で、時にそれがトラブルを生むこともあります。徘徊している高齢者に遭遇したこと、実祖母の入院などで、突如介護の道へ進むことを決意し、高齢者施設で働き始めます。
マニュアルやルールに縛られることなく、人としての感情で高齢者に接する百太郎ですが、周囲とは軋轢がうまれ、利用者の家族ともぶつかることもしばしば。
非常に熱い男ですが、介護の現実に向き合い、過酷な経験をしながら成長していきます。
神崎 仁
百太郎の親友。高齢化社会に突き進む日本では、介護はもはやビジネスであると見据えたうえで介護の世界へ入ってきました。
当初はドライな性格が強調されますが、実はあらゆることをしっかりと考えており、自分の介護にかける思いを実現するためにもキャリアアップの努力を惜しみません。実際には百太郎よりも熱い思いを秘めているともいえます。
百太郎からのSOSにも冷静に専門家として対応し、経験を積んでNPO法人設立まで果たします。
この二人を軸に、その時勤務している施設の同僚や利用者、そしてその家族らが登場します。
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ヘルプマンのあらすじ
百太郎と神崎の成長がメインですが、基本的に巻ごとにコンセプトが設けられています。
1巻では介護保険制度と高齢者や施設の実態(2003年頃の制度に基づく)についてが描かれ、2巻では認知症の高齢者を在宅にて介護することについて、3巻では介護の現状で起きる虐待について描かれます。
時代が約20年近く前の話になるため、中には現在とは違う制度もありますが、在宅介護や認知症、そういったテーマは時代に関係なく起こる問題ですので、今改めて読んでも非常に質の高い内容であることがわかります。
介護虐待編(第3巻~4巻)
(出典元 ©Riki Kusaka 2005)
リストラされて離婚となり、実家へ戻った山咲正孝。正孝には、年老いた両親がいましたが、父親はほとんど寝たきりです。しかし、脳はしっかりしているため、妻や正孝に厳しく接していました。
両親のために必死で介護をする正孝ですが、素人である上に、厳格な父に少しでも認めてほしくて頑張りすぎてしまいます。しかも、その頑張りが空回りどころか、父親にいつまでも認められない虚無感から、とうとう父親に暴力を振るってしまうのでした。
たまたま心配して顔を見に来ていた幼馴染の酒屋・川口がその現場を目撃し、出入りしている喫茶店の息子でもある仁に相談を持ちかけ、仁はすぐに山咲家を訪れます。
他人に頼ることが出来ないと思い込んでいる正孝は、表面を取り繕って孤立したままの介護を続けます。
虐待は行政の耳にも届き始めますが、深入りできないためか全く事態は好転しません。そこで、百太郎がヘルパーとして無理矢理押しかけて・・・
一人で抱え込んでしまう最悪のケースが虐待ですが、する側、される側、双方の気持ちを丁寧に描いた、ヘルプマンの全巻中でも名作です。
成年後見制度篇(18巻~20巻)
(出典元:©Riki Kusaka 2011)
税理士事務所に勤務する吉崎は、無理して購入した家のローンと安らげない家族に悩んでいました。
ある時、近所の高齢女性・犬塚さんの様子が少しおかしいと気づきます。
犬塚さんは認知症が始まっており、離れて暮らす娘・則子が世話をしに来ていましたが、お金の管理などが出来なくなったため、則子が母である犬塚さんの通帳などを管理し始めました。
最初は、公務員であった母親の財産を守るため、ということでやり始めた管理でしたが、則子自身も経済的に余裕がない身であったため、少しずつ、母親の財産に手を付けるようになってしまいます。
一方、税理士の吉崎は、仕事上で「成年後見人制度」について学ぶようになり、たまたまヘルパーの百太郎が加わって、犬塚さんのお金が減っている(電気を止められたことから発覚)ことに疑問を抱きます。
そこで、知り合いの司法書士とともに成年後見制度を利用できないかと包括センターに話に行きますが、難色を示されてしまいます。
ここでは、成年後見制度のメリットと、深く語られることのない「デメリット」がわかりやすく説明されています。
高齢ドライバー編(朝日出版版 第2巻~3巻)
(出典元 ©2015 Riki Kusaka)
柳田設計の経営者・柳田は、無類の車好きです。若いころからスポーツカーを所有し、ドライブに洗車、とにかく車は彼にとってすべてと言っていいほどです。
そんな彼も、年を重ねて高齢者と呼ばれるようになりますが、それでも車への思いは変わらぬまま。
しかしある時から、自分が知らない「車の傷」が増えていることを不審に思うようになります。
一方、神崎仁は、高齢者ドライバーの実態や、増え続ける高齢者の事故を防ぐための法律や、免許返納制度などを学んでいましたが、どれも高齢者の心情や実態にそぐわないものであると思っていました。
(出典元 ©2015 Riki Kusaka)
ある日、柳田は妻から電話で迎えに来てと言われたものの、どこへ行けばいいのか、妻がどこにいるのかを思い出せずパニックに陥ります。それでも車で迎えに行きますが、自分の行動がよく思い出せていないことに気づきます。そして、ふらりと車で出かけた先で、とうとう自分がどこにいるのかすらもわからなくなってしまうのでした。
現在社会問題としても取り上げられる高齢者ドライバーの事故と、運転免許返納制度、それらを報道などでは知り得ようのない角度から深く切り込んでいます。正直、一番ゾッとする回でした…
ヘルプマンの感想
(出典元 ©2016 Riki Kusaka)
私自身、夫の祖母が認知症を患って、時折その実態を垣間見る機会はありましたが、この「ヘルプマン!」で描かれる人々ほどの壮絶な経験はありません。
しかし、身近なところにはいくつもそういう話はあって、たとえば老人が多く入院している病院の婦長さんからは、寝たきり独居老人がどういう介護を受けているか、そういった話を聞くこともあります。
友人は、介護センターの事務として就職したにもかかわらず、夜中看護師さんと共に独居老人の家を周り、ひたすら夜中のオムツ交換をやらされたという人もいます。お金もなく、頼れる身内もいない人は、こうするしかない、というのが現状で、わかってはいるものの自身の行く末を案じてしまわざるを得ません。
この「ヘルプマン!」は、介護にまつわる様々な問題を、そのケースごとにわかりやすく、かつ現実的な話として構成されています。
(出典元:©2015 Riki Kusaka)
登場人物の二人は、いわば正反対の性格ですが、介護は本来誰のためのものか、そこははっきりと一致しているんですよね。
違いがあるとすればその表現の仕方が、百太郎はストレートすぎる、仁は一歩二歩先を見て考えている、そういった違いでしょうか。
また、その二人の違いや様々な登場人物というものは、読者をそのまま表しているとも言えます。
介護や高齢者に対して、手放しで尊敬の念を抱いて崇高な思いを抱く人もいれば、高齢者に対してドライな考えを持っている人もいます。さらに、「きれいごとを言うな!」そう思う当事者も少なくないでしょう。
それらすべての視点を、取りこぼすことなく丁寧に描いている点で評価が高い作品だと言えます。
時には、はっきりと答えを出さずに終わりエピソードや、解決には至らないエピソードもあるのも、決してきれいごとで終わらせない表れだと思います。
介護の経験のない人も、ある人も、真っ最中の人も、どこか得るものがある、そういった部分が長期連載につながり、評価につながっているのではないでしょうか。
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ヘルプマンまとめ
(出典元:Riki Kusaka 2004)
「ヘルプマン!」は、いわゆる清濁併せ吞む、そういった表現が非常にしっくりくる作品です。
介護する家族がなかなか報われない、介護している当事者が読むと倒れそうなほど辛辣な部分もあるかと思えば、ホロっとする救いの部分もあったりします。
また、介護施設運営についてファミレスで話すのを、居合わせたサラリーマンがこっそり聞き入り、その現状に思わず声を上げるシーンなどは魅せ方も秀逸です。
ヘルプマンは動画配信サービス(FOD)で読むことが可能です。
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一気読みも良いですが、1巻から2巻にかけて一つのエピソードが完結するような進み方ですので、エピソードごとに読んでみるのも良いでしょう。
これは決して家族に起こることだけではなく、自身の将来にかかわることでもあり、読後感は爽快とはいきませんが、読んでおくべき作品だと思います!