【ネタバレ感想】映画「私の中のあなた」その痛いほどの深い愛
(出典元:U-NEXT)
皆さんの周りで、重い病気で苦しんでいる人はいますか?
人間は誰でも病気になる可能性がありますし、年をとればすべての人がいずれ死にます。
でも、幼いころに重い病気が発覚したら、本人はもちろん家族の生活、はては人生まで思うようにはいかないということは現実にあり得ます。
今回ご紹介するのは、白血病を患う少女とその家族の紛れもない「愛」の物語、「私の中のあなた」です。
原作(ジュディー・ピコー作 My Sister’s Keeper)がもともと存在していた作品で、ラストや登場人物の構成などに変更があり、特にラストに関しては賛否両論となっていますが、どちらも非常に質の高い作品に仕上がっています。
ラストについてもネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。
目次
私の中のあなたのあらすじ
(出典元:(C) MMIX New Line Productions,Inc.All Rights Reserved.)
急性前骨髄球性白血病を患う姉・ケイト(ソフィア・ヴァジリーヴァ)をもつアナ・フィッツジェラルド(アビゲイル・ブレスリン)は、ある日なけなしの小遣いを握りしめ、街で評判の敏腕弁護士・キャンベル(アレック・ボールドウィン)のもとを訪ねます。
アナは、「自分は病気の姉のを救うために遺伝子操作をされた上で作られたデザイナーズ・ベイビーである」ということを話します。そのうえで、「今後は一切の医療的な処置を拒みたい」といい、両親を訴えたいというのでした。
面食らうキャンベルでしたが、アナが持参した医療記録を見、アナの話を聞いてアナの後見人になることを承諾します。
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裁判所からの召喚状を受け取った母親・サラ(キャメロン・ディアス)は、突然のことに取り乱しますが、父親・ブライアンはアナの気持ちに理解を示します。
ケイトとサラは非常に仲の良い姉妹であり、家族もケイトを中心にまとまっていましたが、実は一番心を痛めていたのはケイトでした。
アナがひた隠す本心と、間に挟まれ苦悩する兄・(エヴァン・エリンソン)、ケイトの残された日々と家族の葛藤の末に判明した驚くべき真実とは。
<予告>
私の中のあなた、見どころと感想
非常に重たいテーマを取り扱った作品ですが、悲壮感といったものはあまり感じられません。全体的にテンポよく、アナをはじめとする家族それぞれの視点でこの物語をみるといった手法で撮られています。
冒頭部分のうまさ
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映画開始からごく短い時間ですが、まずアナの視点で物語の概要が語られます。
命が生まれることは素晴らしい偶然のたまもの、愛の結晶とよく言われるけれど実際はアクシデントの結果。
家族計画とよく人は言うけれど、計画的に考えるのは不妊に悩む人だけ。
そんな中で、「わたし(アナ)」は100%望まれて計画的に誕生した、と語ります。それは、病気の姉のために姉と100%適合する遺伝子を持った「スペア」としての役割を担って、遺伝子操作の元生まれたのだと。
「なにはともあれ、私は生まれた」
これは戸田奈津子さんの翻訳ですが、非常にコンパクトでありながら全てを言い表した訳だなぁと感じました。
母親の愛、父親の葛藤
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同じ親であっても、やはり母親と父親ではその愛も少し違ったものになるのはよくあることです。
ときにそれは、母親から見れば「冷たい」と映りがちな父親の愛ですが、この映画でもそれは如実に表現されています。
母親・サラは、弁護士の仕事もやめケイトにつきっきり。しかし、それが出来るのは、父親・ブライアンが消防士として一家を支えているからです。
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サラはケイトのために尽くすことこそが愛情であると信じて疑いませんし、家族であれば全員自分と同じ気持ちであると考えています。しかし、それはアナの「犠牲」があって初めて成り立つことであるという事実に目を向けようとしません。そのことに気づいていながら目を背けていたブライアン。アナを誰よりも思いやっていたのは、ほかならぬケイトでした。
母の声高な愛も間違っていませんし、父親の寡黙な愛も間違っていません。しかし、目に見える分、サラの愛情はいつしかケイトの負担となっていきます。そして、ケイトはアナにある願いを託すのです。
それぞれが向き合う命
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この映画の中には、ケイトのフィッツジェラルド家の他に、命を向き合っている人が二人出てきます。
1人は、アナが頼った弁護士・キャンベル。もう一人は、アナが起こした訴訟を担当したデ・サルヴォ判事です。
判事には娘がいましたが、飲酒運転の車に轢かれ死亡していたのです。その悲しみは深く、仕事を離れざるを得ないほどでしたが、ようやく復帰できたところでアナの裁判を担当したのです。
一方、キャンベル弁護士は、ケイトに近い問題を抱えていました。介助犬を連れているため、冒頭からなんらかの介助を必要としていることはわかりますが、ストーリーの終盤、それが命にかかわる病気であることがわかります。
そしてそのことで、どうしてキャンベル弁護士がアナの後見人になったのか、儲けを度外視で弁護を引き受けたのかがわかります。
この二人の、それぞれの命に対する向き合い方も、非常に考えさせられる部分の多い構成となっています。
ケイトの青春
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病気であれば、健常な若い子たちが当たりまえに経験する恋愛や楽しい出来事とは無縁でしょうか?
ケイトは辛い闘病生活の中で、偶然知り合った同じ白血病の青年・テイラーと心を通わせるようになります。同じ経験をしているからこそ、分かり合えるふたりは急速に仲を深め、あわせて劇的にケイトの調子は良くなっていきます。
デートを重ね、普通の若い恋人と同じに幸せな時間を過ごすケイトとテイラー。
突然途絶えた連絡は、テイラーの悲しい結末の知らせでもありました。決して長くなはかったものの、深く通じ合えたケイトとテイラーのそれは、間違いなく青春であったと思います。
こんなところにあの人が!海外ドラマファンは見逃すな!
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ストーリーとは離れますが、海外ドラマファンには見逃せない人が登場しています。
1人は、「CSIマイアミ」で、マイアミの太陽より熱い男・ホレイショ・ケインの息子として登場していたカイルが、ケイトの兄弟・ジェシーとして登場しています。
失語症で寄宿舎に入れられた経験を持つジェシーは、ケイトとアナの姉妹の絆のそばに静かに寄り添うといった立ち位置で描かれますが、終盤、本心を言えないアナとそれをいつまでも思いやれない母親・サラに業を煮やし、涙ながらに父親に告白するシーンは非常に心打たれるものでした。
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そしてもう一人、ケイトに確定診断をした専門医・ファルコワ医師を演じたのは、超人気ドラマ「BONES」のテンペランス・ブレナン役・エミリー・デシャネルです。
しかも白衣で登場するもんだから「ブレナン~~!!」とテンション上がりました(笑)
BONES以外にはあまり露出のない彼女ですから、これはレアです。
私の中のあなた、原作との相違点(ネタバレ注意!)
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映画では、アナの訴えが認められるより前に、ケイトはその生涯を終えます。
ケイトの死後、アナをはじめとする家族は、また新たな家族として日々を穏やかに、前向きに過ごしていくのですが、原作は大きく違います。
アナは交通事故に遭い、その臓器はケイトをはじめ必要とする患者に移植され、ケイトは奇跡的に寛解となってその後を生きていく、という結末です。
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これこそ、「私(ケイト)の中のあなた(アナ)」なのですが、映画では「私(アナ)の(心の)中のあなた(ケイト)」と解釈する方が自然と言えるでしょう。
この映画版の結末には賛否両論ありますが、もし原作通りの結末であったら映画のジャンルが変わってしまったのではないかと思ってしまいます、衝撃過ぎる・・・
オリジナルの結末としたことは、個人的には成功であったと感じます。
家族それぞれの「愛」、あなたならどうする?
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移植に頼らなければ生命を維持することが難しい、そんな場合、家族の苦悩は本人のそれとはまた違う苦悩です。
どちらが苦しいか、という話ではなく、全く別であるということです。
両親は、最初からアナをケイトのために「利用する」目的で生み出していますね。両親の誤算というか、わかっていたことなのに考えていなかったこと、それは「いつかアナは自身の考えを持つ」ということでした。
そしてもうひとつ、物事には終わりがあり、そのあとにも道は続くということです。
ケイトは重症で、たとえ腎臓移植などを行ったとしても100%うまくいくとは限りませんし、第一、同じく若いアナは、腎臓を提供すれば体には大きな傷跡が残り、運動もままならない人生を送らなければならないのです。
サラは、強いることこそしませんが、「それをしなければケイトが死ぬ」という言い方で暗にアナの方向性を強制しています。
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もちろん、サラはアナを愛していますが、愛しているからこそ、母親である私の気持ちをわかってくれるはず、とも思っているわけです。
一方で、弟妹たちはというと、親とは違う考えを持っています。すべてをかなぐり捨てて全力で愛を注いでくれる母には言えない本音を、弟妹には言えました。
「ママは私が2つの細胞になっても電気ショックを与えるわ」
笑って言うケイトのこの言葉は、私自身も母親ですが思わずハッとさせられる言葉でした。
諦めないのも間違いなく愛です。しかし、時にそれは愛を超え苦しみに変わっていくこともあるのです。
私の中のあなたを視聴できる動画配信サービス
(出典元:(C) MMIX New Line Productions,Inc.All Rights Reserved.)
「私の中のあなた」は、病気の家族を支えるヒューマンドラマと位置付けられますが、それだけではなくケイト自身の等身大の青春の日々と、家族それぞれの視点で見た家族の物語です。
観る人を驚かせるような小細工は一切なし、というところが非常に好感持てますし、その分、しっかりとストーリーを考えることが出来ます。
決して大きな話題になった映画ではありませんが、ケイトを演じたソフィア・ヴァジリーヴァの演技が素晴らしいです。
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家族だからこそ、愛おしくて悲しい。じんわり温かくなる映画です。
ぜひご覧になってみてくださいね。