【感想・あらすじ】のんちゃんの手のひらにみる、幸せのかたち
(出典元:Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
皆さんにはお子さんがいらっしゃいますか?
全ての人が、とは言いませんが、多くの人はいつか子供を持つ、ということを当たり前に考えていると思います。
しかし、その生まれてくる子どもがいわゆるハンディを背負って生まれてくるかもしれない、ということを真剣に我がこととして考えている人は少ないでしょう。
今回は、その中でも決して珍しいことではない「ダウン症」の子どもとその家族の物語を描いた金子節子作「のんちゃんの手のひら」というコミックをご紹介します。
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のんちゃんの手のひらのあらすじ
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
なかなか子供に恵まれなかった安達有希。結婚6年目にようやく妊娠し、気軽な気持ちで受けた検査で、染色体異常の可能性を指摘されます。
姑や夫の姉妹からは、当然羊水検査を受け、もし障害を持つ赤ちゃんならば中絶することを当たり前のように言われ、有希はショックを受けます。
夫や実母と話し合い、インターネットのダウン症児と暮らす家族のサイトなどを見て、たとえダウン症であったとしても生みたいという気持ちが強まり、有希夫婦は羊水検査を受けず出産することを決めます。
無事出産したものの、やはり赤ちゃんはダウン症児と判明。
赤ちゃんは乃梨子と名付けられ、「のんちゃん」の愛称で親しまれます。
のんびりゆっくりな成長に戸惑いながらも、頑なに反対していた姑にも向き合い、周囲の人や同じダウン症児を持つ親との交流などを通して日々の出来事を綴るストーリーとなっています。
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のんちゃんの手のひらのネタバレ・見どころ
全10巻で完結している「のんちゃんの手のひら」ですが、結構長く続いたな、と思います。
自分の子どもがそうであろうがなかろうが、やはり関心が高いことなのでしょうね。
ではいくつかの見どころ、エピソードをご紹介しましょう。
出生前診断について
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
有希夫婦は、30代後半での初産ということもあり、病院にすすめられるがまま、軽い気持ちで検査(母体血清マーカー検査)を受けます。
この時点では、まさか自分の身に、自分の赤ちゃんがハンディを背負っているとは考えもしていなかったようですが、その安易な気持ちでこの検査を受けたことを後悔することになります。
本来は、その可能性も視野に入れた上で覚悟をもってしなければならない検査なのですが、やっとの妊娠ということもあり、喜びが勝ってしまったのでしょうね。
出生前診断でわかることはいろいろありますが、この母体血清マーカー検査では主にダウン症の確率を判定することが出来ます。
しかし確定ではないため、この検査で高い確率が示された場合、羊水検査で確定診断をすることが多いですが、わずかながら流産する危険性があるため、慎重を期する必要があります。
作中、有希の担当医は、羊水検査を受けずに出産に臨む有希夫婦に敬意を表したいと言います。それは、その担当医の妻が羊水検査が原因で流産しており、しかも検査の結果は陰性であったためでした。
現在、多くの妊婦さんはこの検査を当たり前のように受ける風潮がありますが、結果についてどう捉えるかくらいは、あらかじめ夫婦で話し合っておく必要がありますね。
子どもたちの目線
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
幼稚園に通うようになると、のんちゃんにも友達が出来ます。子どもたちも、どこかのんちゃんはのんびり屋さんだ、という程度には理解していますが、あからさまにいじめたり、差別するようなことはありません。
子どもっていいなー、大人とは違うよなーなんて思って読み進めていくと、時に子どもの残酷さや打算、やさしさに見せかけた優越感などがリアルに描かれています。
たとえば、小学校に上がりなにかと遅れがちなのんちゃんの世話を焼き、一緒に遊んでくれていた優香ちゃん。
運動会で当然ビリだったのんちゃんですが、優香ちゃんもおなかが痛くなって座り込んでしまいました。追いついたのんちゃんが、優香ちゃんの手を取りふたりで一生懸命ゴールを目指したのですが、ゴール直前、優香ちゃんはのんちゃんの手を振り払い、自分が先にゴールします。
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
優香ちゃんがのんちゃんに対してどんな感情を持っていたのかはわかりませんが、その件以降、優香ちゃんはのんちゃんと遊ばなくなってしまうことから、「ダメなのんちゃん」だから優しくできていたんだろうなぁと思わざるを得ませんでした。
もちろん、それがいいとか悪いではなく、優香ちゃんにも言い分はあったはずです。自分だって一生懸命走っていたのに、ダウン症児ののんちゃんが一生懸命やることには敵わない。みんな、のんちゃんばかりをすごい!頑張った!と褒めるのですから、悔しかったでしょうね。
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
また、親が偏見の目で見ている場合もあります。しかし、子どもは惑わされない子が多いんですよね。親の偏見に真っ向から「どうして?」と問いただす子もいます。
毎日のんちゃんと共に学校で過ごし、大変なこともあるけど子どもなりに知恵を出し合い、協力してのんちゃんを一緒に大きくなっていく。そんな子どもたちの存在もたくさん描かれています。
ダウン症児の力
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
以下の文章には賛否あると思います。あくまで、私の経験も踏まえた上でのことなのでご了承ください。
さまざまな障がいを持っている子どもたちがいますが、その中でもダウン症はある面において他の障害とは明らかに違うと私は思っています。
そして、そのある面について、この「のんちゃんの手のひら」でもたびたびクローズアップされます。
それは、ダウン症児独特のまっすぐな心です。
私たちは経験が増えたり成長するにつれ、悪意を持つことが必ずあります。また、変に気を使ったり、保身を気にしたり、「本当の気持ち」を伝えられなかったりします。
しかし、ダウン症児はそれがないんじゃないかと思うのです。
言葉を選ばずに言えば、単純だからこそ人の痛みを我がことのように受け止めたり、悲しんでいる人がいれば自分も悲しくなり、喜んでいる人がいれば一緒に嬉しくなる、そういう症状が強い人なんじゃないかと思うのです。
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
もちろん、嫉妬や寂しい気持ちも持っていますし、嫌なことは嫌だと頑なになる面もあるでしょうが、じめじめとした悪意を持って何か行動するということはあまり聞いたことがありません。
「のんちゃんの手のひら」はあくまでフィクションですから、その面を誇張している感は否めないですが、それでも私が知るダウン症の人も、多くは朗らかで頑張り屋な人が多いため、この作品に否定的な印象は持ちませんでした。
周囲の人の戸惑いや現実問題
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
当初、有希の姑はのんちゃんを認めていませんでした。しかし、少しずつかかわりを持つことでのんちゃんのことを心から愛するようになります。
また、ハンディを持つ子どもがぶち当たる壁に、就学問題というものがあります。
普通の学校の普通のクラスに行くのか、普通の学校のいわゆる特殊学級へいくのか、それとも養護学校か。さまざまな選択があり、教育委員会や受け手となる学校と親とが協議するわけですが、のんちゃんの親である安達夫婦は、普通学校の普通学級にこだわります。
この部分は、読者の間でも賛否が分かれたのではないかと思う部分で、私は否定的な立場です。
というのも、学校にいるのは機械ではなく人なので、どの学校、どの先生、どの友達がつくかで普通学校の普通学級というのは、いわばバクチに近いと考えているからです。
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
比較的順応しているのんちゃんでも、授業中に抜け出す、行方不明になる、給食をひっくり返すなどトラブルが尽きません。
それをどう受け止めるかはみんなが画一ではないですし、そのことを負担に感じて自分が苦しくなる子どももいるのです。先生も同じでしょう。
全体を考えた時、ハンディのあるお友達と過ごすことは個人的には生涯に関わる有意義な時間になるといえます。
しかし、時にはそのことが原因のトラブルも起こるでしょうし、一概にベストだとは言い切れないですよね。
この作品では、結果として良い方向へ行ったので良かったですが、学ぶことの定義が人ぞれぞれ違う(しっかり学習することが大切なのか、友達を作ることなのか、博愛の精神を持つことなのか、などなど)以上、倫理観や人として論を持ち出すのは違うのかな、と思います。
のんちゃんの手のひらの感想
ネット上でも、ダウン症を扱った作品として有名ですし、10巻続いたことを考えても非常に評価は高かったといえます。
自閉症児を扱った作品「光とともに・・・」も有名ですが、この「のんちゃんの手のひら」も、ダウン症児を授かった家族の葛藤と成長、そしてダウン症児本人の生きていく姿をリアルに描けていたのではないかと感じました。
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
ただ、金子節子さんの作風でしょうか、いつも家族が経済的に余裕がある(医者や一流企業勤めなど)場合が多く、その点が「お金がなければその選択は出来ないよなぁ…」と読者に思わせてしまう点がいつも残念です(笑)。
この「のんちゃんの手のひら」も、歯科医と専業主婦の両親、義実家も歯科医でバザーに着物などを出すような家で、一般の家庭とはちょっと違うためその点がリアリティにかけるかな、と思います。
また、のんちゃんの父親の、よく言えば毅然とした、悪く言えば聞く耳を持たない態度も賛否が分かれる点と言えるでしょう。
学校をどこにするか…のくだりでも、現場の先生方の言い分を切り捨てるかのような態度はどうかな、と感じました。
一方で両親の愛情をしっかりと受け、悲しいことや辛いことも経験しながら成長するのんちゃんや、のんちゃんのありのままを受け止めてくれる友達や先生方も細かく描かれており、どのエピソードも非常に読みごたえがあります。
制度上の問題や、学校側の本音、先生の立場、子どもたちの考えなど、よく取材されているという印象です。
実際のダウン症児を持つご家庭の方から見ると、こんなうまくいかないよ、と言われるかもしれませんが、それでもダウン症を知る、そう言った意味では多くの視点から描かれていることも功を奏しているのではないかと感じました。
のんちゃんの手のひらまとめ
(出典元 Setsuko Kaneko,Futabasha Co,ltd.)
いつも私の家の近くで、おかあさんといっしょに施設のバスを待っているダウン症の人がいました。
あるときから、彼はお母さんとべったりにならず、お母さんは少し離れた場所で待つようになりました。そして、今ではひとりでバスを待っています。
リュックを背負い、ニコニコしてバスを待つ彼は、障がい者という言葉がまったく似合っていません。
現在、出生前診断が広く知られ、中絶を促進しているとも言われます。命の選別であると。
これについては他人が口をはさんでよいことではないと思っています。きれいごとで済まされない現実があるからです。
しかし、彼を見るたびに思います。彼はもしかしたら親が違えば生まれてくることがなかった命かもしれないと。
それを考えた時、胸が苦しくてたまらなくなります。ニコニコする彼を見て、生まれてきてかわいそうと誰が思うのだろうと思います。
大変難しいことですが、これから子供を持ちたいと考える方には一度手に取っていただきたい作品だと思います。
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