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【あらすじ・ネタバレ】悲しくも美しい女たちの人生「吉原炎上」のすべて


(出典元:Hulu)

日本では古くから、女性たちが働く遊郭と呼ばれる場所がありました。

貧しい農村から、家族を助けるために出てきたり、借金のかたにいわば「身売り」されたり、その事情は様々ですが、みな悲しい人生を背負った女性ばかりでした。

時代と共に法律も変わり、遊郭の多くが姿を消していく中、今なお語り継がれる日本最大の遊郭、吉原の最盛期を題材にした映画、あの五社英雄監督作品「吉原炎上」について、その遊郭の歴史や女性たちについてもまとめました。

ネタバレも大いに含みますので未見の方は注意してください。

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登場人物(キャスト)と設定


(出典元:Hulu)

時は1908年、漁師をしていた父親が事故で作った賠償金を支払うため、久乃(名取裕子)は女衒(成田三樹夫)に連れられて19歳で吉原へと売られます。

久乃は中梅楼(なかうめろう)という大店(おおだな)で働くことになり、先輩女郎の九重(二宮さよ子)、吉里(藤真利子)、小花(西川峰子)、菊川(かたせ梨乃)らに女郎としての手ほどきを受けながら、源氏名「若汐」として花魁へと成長していきます。

この物語は、春夏秋冬を4つに分け、それぞれに主人公が存在します。

廓(くるわ=遊郭のこと)で起こる様々な人間模様、愛憎劇を久乃(若汐)がいわば脇役としてかかわるというスタイルで描かれており、決して久乃だけの物語ではないというところも頭に入れておいてください。

吉原炎上、それぞれの物語のあらすじ

春の章~九重の場合


(出典元:東映)

久乃が売られた当時の中梅楼で御職(おしょく=最高位の花魁、現代でいうところのナンバーワン嬢)を張っていた九重は、久乃の姉女郎としていろいろと面倒を見てくれます。

初めて客の前に出た久乃は、おしりを触られたことでこともあろうに姉女郎・九重の客を叩いてしまいます。

実はこの客は九重の間夫(まぶ=客以上、恋人未満の関係で、時には揚げ代を払わず花魁と会うこともあった)で、嫉妬に駆られた九重は教育と偽って久乃にきつく当たります。

それでも久乃に目をかけていた九重自身の提案で、久乃の若汐としての初見世の後見人をすることになります。

九重の上客を若汐の初見世の相手にまでしたにもかかわらず、若汐は耐えられずに逃げてしまい・・・

夏の章~吉里の場合~


(出典元:東映)

吉里は九重が吉原を去ったあとの御職となりますが、いわゆる「だめんず・うぉ~か~」というやつで、男のために借金ばかりこしらえています。それでも、「生まれては苦界、死しては浄閑寺(女郎は生まれてからは廓という苦界でしか生きられず、死んだあとは近くにあった浄閑寺にむしろにくるまれ投げ込まれたことから)」と川柳に詠まれるような女郎の一生で終わりたくないともがいています。

開き直って貧乏くさいことも平気でする菊川とは事あるごとにケンカをする日々。

ある時、命を賭けようと思った間夫に裏切られ、日ごろから死にたいと口にしていた別の客を道連れにしようとしますが、土壇場で男は逃げてしまいます。

壊れてしまった吉里は、剃刀を手に真夏の大通りへと走り出し・・・

秋の章~小花の場合~


(出典元:東映)

中梅楼で働く妓夫(ぎう=男性スタッフ)や遣り手(やりて=中年以降の世話係の女性。引退した女郎がなることもある)などにも目をかけることで人気の小花は、徳川の血をひく家柄で、両親を亡くした後に弟を帝大医学部に入れるために女郎になったという生い立ちでした。

しかし、肺結核を患い、花魁として立ちいかなくなってしまいます。御職を張っていたことにプライドを持っていた小花は、自分が使い物にならなくなり、さらに御職の地位を若汐に奪われたことで精神を病み・・・

冬の章~菊川の場合~


(出典元:東映)

客の評判が悪かった菊川は、下級の見世へ鞍替えとなっていました。しかしその後、愛する男と所帯を持ち、吉原を出ますが、男には結果逃げられ、さらに下級、羅生門の河岸見世(かしみせ=吉原のはずれの鉄漿(おはぐろ)どぶに面したあばら家街にある見世)に堕ちていました。

相変わらずの豪快な菊川ですが、夫を寝取った女からの金の無心にも応じてしまうほどのお人よしさも健在でした。

菊川は妹分・お春(野村真美)をかわいがっており、かつて中梅楼で若汐の客であった古島は、そのお春の情男(いろ=間夫よりも感情が入ったいわゆる恋人)となっていました。

古島を見つけた若汐が現れた際、お春の恋心を守るため身を挺して若汐を拒否します。

久乃の場合


(出典元:東映)

最初こそ、トラブルを起こしてばかりの女郎だった久乃ですが、若汐となってのちは、姉女郎・九重が見抜いていた通りの才能を発揮し、上客・古島財閥の御曹司(根津甚八)を射止めます。

しかし、久乃の心には故郷で別れた恋人の存在があり、一度だけ中梅楼へ久乃を捜しにきたその男との間に、子どもが出来てしまいます。

悩んだ久乃でしたが、その男は自分が思っていたような男ではなかったことを知らされ、吉里に教えられた方法で堕胎します。

命を絶った吉里の墓前で、久乃はなにかを決意し、「紫」の名の御職花魁としてのし上がることになっていきます。

そして、廃れていた花魁道中を復活させることを夢に、御職として奮闘するのですが、身も心も「娼婦」になった若汐に、古島は落胆し去っていきます。

夢の花魁道中を実現させた若汐は、古島に本心を告げようとしますが、菊川に阻まれ叶わないまま、上客・坪坂(小林稔侍)に身請けされ、吉原大門を出ます。しかし直後に、吉原から火の手が上がるのを見た若汐は、坪坂の手を振り払って吉原へ戻っていき…

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<特報>

感想と見どころ

吉原のしきたりと女郎の格


(出典元:東映)

詳しくは触れられませんが、吉原には当時数々の掟、しきたり、そして女郎たちにはいわゆる格付けがありました。

吉原では、なじみの客が別の花魁を指名することは、花魁に恥をかかせることにつながるため御法度でした。

作品中でも、久乃の初めての客は九重花魁の許可を取って九重の客がついています。これを破ると、客は妓夫らに捕らえられ、その店の女郎たちにちょんまげを切られたり、顔や体に墨で落書きをされて笑いものにされるという罰ゲームが待っています。

また、一度売られた女郎は、その年季が明けるまでは吉原大門を勝手に出ることは許されません。

吉原は周囲をぐるりと堀で囲まれており、黒板塀がそれを取り囲んでいます。そしてその一部が刎ね橋と呼ばれ、死人が出たりするとそこから外へと出される仕組みになっていました。

時として、女郎が逃げたり、あるいは駆け落ちなどが発覚した場合は、江戸時代であれば首代(くびだい=地回りのヤクザみたいな用心棒)に捉えられて場合によっては斬り捨てられることもあったようですが、この「吉原炎上」の明治後期ではそこまではなかったようです。


(出典元:東映)

女郎の格については、時代や地域によって違いはありますが、最上位の女郎を「太夫」「昼三(ちゅうさん)」「中座(なかざ)」「傾城(けいせい)」などと呼んでいました。

ちなみに、作中に出てくる「御職」ですが、実際には中梅楼のような大きい見世では使用される言葉ではなかったといいます。

高位の女郎は、いわゆる引手茶屋と呼ばれるところから来た上客のみを相手にすればよいため、張り出しと呼ばれる客寄せの場所(現在でいうところの写真パネルへの顔出し)に出る必要はありません。

しかし、そうでない女郎は格子のある場所で客に顔を見せて客を取るため、格子女郎と呼ばれます。

彼女たちはキャバクラでいうところのヘルプ、風俗でいうところのフリー(指名なしの客)を相手にするため、回し女郎とも言われました。

その下には、新造(しんぞ=まだ若い見習い女郎)、禿(かむろ=遊郭で生まれた女児、または売られた幼女のこと)などがあります。


(出典元:東映)

それ以外にも、作中の冬の章において、菊川がいた河岸見世にいる女郎を百蔵(ひゃくぞう=代金が百文の安い女郎)、局女郎、河岸女郎などと呼んでおり、遊べる金額から出てくる酒まで天と地の差がありました。

最高位の花魁ともなれば稼ぎもすさまじいものではありましたが、衣装代から布団代、事あるごとに行事ごとでお金が飛ぶシステムになっており、春の章の九重のように自分でお金を足して年季明けを早められる女郎は少なかったのです。

そういった点で、この悲しい「吉原炎上」の中では、自分の足で吉原大門を出て行った九重の人生はマシであったといえます。

久乃から若汐へ、男ってやつは・・・


(出典元:東映)

売られた当初の久乃は、田舎の垢ぬけない娘でしたが、九重の手ほどきによって女郎としての技を仕込まれます。

それでも、どこかオドオドとして心まで女郎になり切れなかった久乃は、若汐と名を変えても他の女郎たちとは違っていたのでしょう。

そこに目をつけたのが、古島財閥の御曹司だったわけです。

しかし若汐は、吉里の死で、女郎の扱われ方を嫌というほど知ったのでしょう。墓前で吉里を「弱虫!」と吐き捨てます。

そこからの若汐は、かつての久乃を捨て去り、女郎としてのプライドと意地を前面に出して生きるようになります。妓楼から頼み込まれた花魁道中復活のために、身を粉にして働きます。名も、「紫」という由緒ある名をもらっていました。

しかしそれは、古島の若様の気持ちが醒めていく原因にもなってしまいました。古島の若様は、女郎としての人生に抗う久乃に惹かれていたわけであり、女郎のプライドを持った紫には興味はなかったのです。

というより、久乃を女郎として扱いたくなかったのでしょう。だから、女郎でございと胸を張る紫を抱かなかったのです。


(出典元:東映)

小花に寝具を切り刻まれた紫は古島の前で小花を罵り、自分がどれだけ必死だったかを訴えます。古島の若様はそんな紫を見つめ、「きみはいつから心まで娼婦に成り下がってしまったんだ」というわけです。

そう、まるで風俗店に客として来ておきながら、「きみは何をやってるんだ」説教を始めるオジサンのようです…

もちろん、古島の若様はそれまで紫を一度も抱いていませんから一緒ではないのですが、それにしてもそんなこというくらいならさっさと身請けしてやれよと思ったのは私だけではないはずです。

「ここ噛んで!」西川峰子の女優魂

吉原炎上と言えばこのシーン、というほど、西川峰子演じる小花の錯乱シーンは凄まじくもあり、美しく、そして泣けます。

ちなみに五社英雄監督は、このシーンがあるがゆえに小花役の女優選定に迷い、撮影の一週間前ににようやく西川峰子に決めたそうです。

小花は由緒正しい家柄の出であると吹聴していましたが、実は河岸女郎であった母親に搾取され続けた娘で、父親はどこの誰かもわかりません。

それを隠し、必死でこの世界で生きてきたわけです。本来優しく面倒見がよかったのでしょう、小花は中梅楼の遣り手(本来は結構意地悪だったり怖い人が多い)からも好かれる存在です。


(出典元:東映)

その小花が、紫に御職の座を奪われて錯乱するのですが、眉なしの白塗りで、髪を振り乱した小花が朱布団の上で血を吐きながらのたうち回るこのシーンは圧巻です。

そして、「ここ噛んで!噛んでよぉ!誰でもいいから…」と叫ぶのですね。

小花に怒っていた紫は、その姿を見て言葉を失くし、振り絞るように「あんた、今までどんな目に遭ってきたのよ」とつぶやくのが精一杯でした。

このシーンは、先日マツコ・デラックスと友近による番組においても紹介され、ネット上でも改めて話題になりました。あのシーンだけを見た人には「これはどういう状況??」となったでしょうけれど、吉原炎上における最大の名場面なのです。

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衝撃のラスト、若様の真意は?


(出典元:東映)

冬の章において、古島の若様は菊川がいる河岸見世にいることが判明します。

そこでお春という女郎の客というより情男(イロ)として住みついている状態でした。この時点では、古島財閥から縁切りされており、金もなかったようですね。

巷では中梅楼の御職・紫が花魁道中を復活させたという評判でもちきりです。当然、若様の耳にもその話題は届いていたことでしょう。

花魁道中が成功したのは、この若様が紫にお金を渡したからです。しかも、そのお金は若様が紫を身請けするつもりで用意した全財産でもありました。

しかしそれを紫は拒み、というより言わさず、花魁道中の話をいうのですね。

紫にいわば男心を袖にされた若様は、その河岸見世でお春と出会い、おそらくお春にかつての久乃を見出していたのでしょう。


(出典元:東映)

紫が身請けされ、吉原を出ていくその日、菊川らがいた河岸見世から火が出て吉原は大火に見舞われます。

原因は、情事の最中にお春が蹴倒したしみ抜き用のおそらくベンジンがランプに引火したことなのですが、実は不可解な点があります。

ベンジンが倒れてこぼれているのを、古島の若様は横目で確認しています。そのうえで、対処することもせず、どこか何かを悟ったかのような表情をしています。

その直後に、爆発が起こって大火へと繋がるわけですが、古島の若様はなぜ、逃げようとしなかったのでしょうか。

おそらく若様は、心の底では久乃を忘れられなかったと思われます。その久乃の本心も、菊川によって若様の耳には届きませんでした。

そして、久乃は紫として別の男と吉原を出ていく・・・

作品では語られませんが、若様はベンジンが倒れた瞬間、「もういいかな」と思ったのではないでしょうか。

その直前までは、そんな気持ちはなかったかもしれませんが、偶然お膳立てがそろってしまった。そして、流れに身を任せたのではないでしょうか。自分を愛してくれるお春を道連れに。

成行きの心中と言った方が良いかもしれませんね。

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(出典元:東映)

昨今、女性の地位向上というか、女性は弱く守られる存在ではなくなりました。

それらは過去におけるこのような悲しい女たちの存在の上に成り立っています。

しかし、悲しい半面、そこで生きた、生きるしかなかった女たちのことを忘れてはいけないとも思っています。

遊郭をテーマにした作品は、吉原炎上以外にも宮尾登美子の名作「陽暉楼」、蜷川実花監督作品「さくらん」、安達祐実の衝撃のヌード「花宵道中」などがありますが、やはり五社英雄監督作品(陽暉楼もそうです)はその色彩がおどろおどろしくも美しいため、他の作品とは一線を画しています。

濡れ場(あえてこう書きますが)も、本気の女優が勢ぞろいしていますのでその脱ぎっぷりもすごいです。昔はこれがゴールデンタイムに地上波で放送されてましたが、今は無理だと思われます。それほど、スゴイ。

伝説のあのシーンを演じた西川峰子が気合十分で挑んだのに対し、主演の名取裕子は当時、出演自体をどうしようかと悩むほど濡れ場に自信が持てず、五社監督と助監督が手本を見せたほどだったとか。

生涯において見ておくべき映画のひとつです。

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