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映画「愚行録」ネタバレ・感想!そこには、悪意も、善意もない


(出典元:ビデオパス)

私たちは自分をありたいと思っているでしょうか。

少なくとも、「善き人、善き行いをする人」であろうとしている人がほとんどでしょう。そして、自分が「正義」と思っていることの反対をする人のことを、苦々しく思います。

たとえば、今話題になっている「煽り運転」もそうです。自分はきちんと運転している、それを邪魔するものは悪だ、と思うがゆえに、見ず知らずの人を罰しようとしてしまいます。

他にも、とりとめなく話した噂話が、他人を深く傷つけることもありますし、全く悪意のない言動が他人の怒りを生むということもあります。

今回ご紹介する映画は、破滅した家族から見えてくる人々の善意、悪意、計算をこれでもかと詰め込んだ「イヤミス」の頂点、貫井徳郎原作の「愚行録」です。

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愚行録のあらすじ


(出典元:(C)2017「愚行録」製作委員会)

郊外の新興住宅地に住む田向(たこう)(小出恵介)とその妻・(旧姓・夏原)友希(松本若菜)と娘の3人が、何者かによって殺害された事件は、1年経過してもいまだ未解決でした。

雑誌記者の田中(妻夫木聡)は、その事件を取材していますが、実は実妹・光子(満島ひかり)が育児放棄で逮捕されており、心の中にはいつもそのことがあります。

田中が取材をしたのは、田向の同僚・渡辺(眞島秀和)、学生時代の元恋人・稲村恵美(市川由衣)、友希の学生時代の女友達・宮村淳子(臼田あさ美)とその元恋人・尾形(中村倫也)。

彼らの話から見えたのは、一見、人当たりの良い幸せそのものの田向夫妻の「意外な過去」でした。
そして、意外なところから、妹・光子と彼女たちとのつながりが見えてきて…

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<予告>

愚行録の見どころ・ネタバレ

キャッチコピーに、「仕掛けられた3度の衝撃」というものがあります。もうこれだけで、興味がわいてくるわけですが、同時にいくつか「謎」な部分というか、作中ではっきりと語られない部分もあります。

それらについても詳しく見ていきましょう。ネタバレ注意です。

3度の衝撃とは?


(出典元:YouTube)

この作品は一家惨殺事件という、起こってしまった出来事から過去へさかのぼる形で描かれています。

いわば、謎解きというわけですが、その中で「え!そうなの?!」という驚くべき事実が明らかになります。しかし、実際には「映画を見ただけでは気づけない」衝撃もあります。

実際、はっきりとどれがその3度の衝撃なのか、は明かされていませんが、ここではあえて、「一度見たけどよくわからなかった」人へ、私なりのヒントを出してみます。

多くの方が気づくであろう部分としては、

  • 田向家殺害の犯人が誰か
  • 光子の子供の父親は誰か
  • 田中の行動の真意

だと思われます。


(出典元:(C)2017「愚行録」製作委員会)

いずれも物語の終盤に集中していますので、怒涛の展開になってしまうわけですが、その中で「田中の行動の真意」は、映画だけだと別の解釈で終わってしまう可能性があります。

ネタバレになりますが、この田中がとった行動というのは、取材の過程で知り合った宮村淳子を殺害してしまうことを指します。

しかし、「なぜ、殺したのか」が重要な意味を持ちます。私は当初、宮村淳子が田中の妹と知らずに光子のことを馬鹿にするような発言をしたことが逆鱗に触れたのかと思っていました。

ただ、妹が宮村や殺害された友希と同じ大学にいたことを兄が知らなかったはずはなく、にもかかわらず突然に光子の話が出てくる時点でちょっと引っかかるものがありました。

また、宮村淳子を殺害した後に、まるでこうなることがわかっていたかのように偽装工作をしたのも気になりました。

そもそも、田中は話題性もないこの「田向家一家殺害事件」をなぜ取材しようと思ったのでしょうね?

実は、そこに田中の「真の目的」が隠されているのです。その真の目的が分かった時こそが、一番の衝撃といえるのです。

登場人物の「愚行」あれこれ


(出典元:YouTube)

そもそも「愚行」とは、読んで字のごとく「愚かな行い」のことです。

それは、考えもなしに行った軽はずみなこと、計算しつくした上でのこと、善意のつもりでやったこと、などなど形は様々ですが「結果的に」愚かな行いになってしまった、そんなことが含まれています。

数々の愚行は、田中が取材をする中で見えてきます。それらは、特別な行為でもなんでもなく、日常のいたるところであふれかえっているようなことばかりです。

小出恵介扮する田向は、利用できるものは何でも利用するのが当たり前、と言ってはばかりませんが、その結果手に入れたのは「安酒で日々のうっぷんを発散するだけの普通のサラリーマン」です。

彼の妻、友希も、大学時代自分の地位を確保するため計算高く立ち回ってきた女性で、そのためならば女友達も利用するほどのなりふり構わぬ行動の果てに手に入れたのは、郊外の小さな一戸建てと、エリートとは程遠い普通の夫でした。


(出典元:(C)2017「愚行録」製作委員会)

そんなお世辞にも善人とはいえない田向の同僚・渡辺は、取材に来た田中に対し、田向と共謀してした女性社員への卑劣な話を武勇伝としてきかせます。そして直後、「あんないいやつがなんで殺されんとあかんのや」と号泣するのです。

~男たちの喫煙所篇~

彼らは田向夫妻についていろいろと語るわけですが、それらはすべて自分を語ることへと通じています。

そんな人々をさめた目で見る田中ですが、彼自身の本質は映画冒頭に見られます。

込み合ったバスの中、座っている田中に1人の男性が「立っているお年寄りに席を譲れ」と詰め寄ります。田中は言い返すこともなく立ち上がりますが、おもむろによろけ、転びます。そして、肢を引きずりながらバスを降りて行くのを、周りの人は「この人は身障者だったから座っていたのか」と見ており、バスの中から先ほどの男性がバツの悪そうな顔をして見送っています。

田中は、わざと身障者のふりをして、善意を振りかざしてきた男性に仕返ししたわけです。バスが過ぎると彼は何事もなかったかのように歩き出します。

このように、登場人物のありとあらゆる言動が第三者のフィルターを通してみることで、「愚行」が際立って見えるのもこの映画の見どころのひとつです。

決して解消されない「不公平」と「格差」


(出典元:(C)2017「愚行録」製作委員会)

たとえば生まれ育った家の経済格差や、家族のかたちなど、自分の努力ではどうしようもない「不公平」というものがあります。

しかし、たとえ貧困の中に生まれようと、努力次第で格差を解消していけますし、そのために人は勉強し、働き、自分を磨いていくわけです。

ただ、どんなに努力してもみんながみんなオリンピックには出られないのと同じで、埋められない格差も当然存在しています。

多くの人は、それらをなんとなく理解し、嗅ぎ分け、自分の手の届く範囲で格差を埋めようとするのですが、一部にはその範疇がわからない人もいます。それが、この物語の中にいる「光子」です。

たとえば殺害された田向の妻・友希も、いわゆる「内部進学」がある大学に「外部生」として存在していました。ざっくりいうと、内部進学の人はいわゆる「幼稚園から慶応」みたいな人であり、それなりの経済力と家柄を持っていると考えてください。反面、外部生は、大学から入ってきた人であり、外部と内部には見えない高い高い壁があるのです。


(出典元:(C)2017「愚行録」製作委員会)

友希は美貌を武器に内部の男子学生と親しくなり、その手土産として「内部の男子学生が絶対に恋人にしない」であろう「母子家庭の外部生」である光子を差し出します。光子は、薄々自分の立ち位置に気づいてはいますが、それでも自分が育ったのとは違う家庭を築くことを夢見て、その立場を甘受します。

そうすることで、そうすることでしか、のし上がる術はなかったのです。もっと言えば、そうすればのし上がれると信じていたのでしょう。
しかし、卒業後偶然見かけた友希に無視されたことで、あそこまでしても自分は友希の立場にすら届かなかった、と、光子がギリギリ押し殺していた友希への恨みや不公平感が爆発してしまうのですね。


(出典元:映画「愚行録」公式Twitter)

友希にしてみても、結果として歴然たる不公平感は取り払うことは出来ていません。先にも述べたように、そこまでしても、手に入ったのは中流の普通の暮らしでしかなかったのですから。もしも自身が思い描いたとおりの生活を手に入れていたら、あの時光子を無視することはなかったでしょう。彼女は彼女なりに、必死だった部分もあったのです。

他人を語ることは、自分を語ること


(出典元:(C)2017「愚行録」製作委員会)

この映画は、すべてがちょっとした「愚行」で出来上がっています。

冒頭の、妻夫木聡演じる田中が他人に押し付けられた善意と正義に強かに抵抗する場面は、田中の愚行であるわけですが、一方で、「若者が座っているのはけしからん」とする嘆かわしいほどの思慮のなさに起因する善意と正義も、立派な愚行であると私は思います。

また、田向が同僚の渡辺と共謀し、女子社員の一人をいいように弄ぶくだりがありますが、ゲス過ぎるふたり以上に、合コンであからさまに女子力アピールし、自分に気があるとみるや否や即、乗り換えた挙句、2人に去られる女子社員の「愚行」っぷりも見ものです。


(出典元:映画「愚行録」公式Twitter)

去り行く男に追いすがるエレベーターでのシーンは、思わず「にやり」としてしまうほど。

みな、自分で自分の話をするのではなく、自分が見た彼、彼女の話をします。そこには、あからさまな悪意はありませんが、言葉の端々、表情になんとなく表れるものですよね。そして、それを見た、聞いた第三者が、その人のことを今度は判断するのです。

他人を語ることで、自分を知らず知らずのうちに曝け出しているということになるのですね。

登場人物のそれぞれが、他人をどう見ているか、同じ事柄も語る人が違えばこうも違うのかとあらためて思い知らされます。

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~女のマウンティング篇~

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(出典元:映画「愚行録」公式Twitter)

映画「愚行録」は、現在U-NEXTAmazonプライムRakutenTVほかで取り扱いがありますが、いずれも課金扱いとなっていますので、ポイントやお試し期間などをうまく利用することをおすすめします。

原作者である貫井徳郎さんの他の作品も、日常が崩壊していくサスペンスものが多く小説もおすすめです。

「愚行録」自体も直木賞候補になっており、満島ひかりや妻夫木聡、そして近年注目株の中村倫也など演技派の俳優がそろっており、見ごたえは十分です。

田向役の小出恵介も、いろんな意味で非常にリアルな役どころといえます(笑)。

見終わった後にどんよりとして気分になるイヤミス映画「愚行録」、是非楽しんでください!

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